ホールも楽器。
この週末、副業をしている某コンサートホールで公開レコーディングがあった。ジョセフ・リンというヴァイオリン弾きさん。これが、また、すごかった。
コンサートホールで案内係をしていると、「演奏がタダで聴けてうらやましい」とよく言われる。けれど、実はあんまり聴いていない。というか、場内にいても聴き入るだけの余裕はない。ただときどき、どうしようもなく音楽に惹きつけられることがある。リンさんのヴァイオリンもそうだった。
普段は、自分自身が集中して聴いていないせいもあるとは思うけれど、音がそっぽを向いている感じがする。音がしているのは聞こえるけれど、それが私のところまでやってくることはない。けど、本当にまれに、音に呼びかけられる。「こっちだよ」と。ふと目を向ければ、音はステージの上で、強い意思を持って私のほうを向いている。私と楽器の間にはたくさんの空気があって、音はその空気をふるふると震わせながら私のところまでやってきて、しゅるるっと耳に吸い込まれていく。そんな、音のたどる道が目に見えるような気がするのだ。そういうとき、その演奏は私の心にどっしりと響いて、その演奏以外のことを思うためのスペースは一切なくなってしまう。「ホールはただの箱」と普段は思っているけれど、そのときばかりは違う。、ホール自身も自分の体を震わせて、音が広がっていくのを応援しているような、そんな感じ。普段はまったく意識していないけれど、ホール君、君もいい演奏を届けるために一役買っていたんだね、と、なんだか自分の働くホールをとてもいとおしく思えたりして。
あぁ、私はさほど音楽に詳しくないので、よい演奏を賞賛するためのボキャブラリーをあまり持ち合わせておらず、非常に歯がゆいのです。けれど、とにかくリンさんのヴァイオリンは、本当に、とてもよかった。ぐぁしっとつかまれた感じ。目をそらせない感じ。今度また公演があったら、絶対お客さんで来よう。
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